(1) 手にくっついた茶碗
語り部:清水 吉右工門(大正5年生)
マグニチュード7.2の大地震が相模湾を震源として関東南部を襲ったとき私は小学一年生でした。大正12年の9月1日、家族と昼食をとっている時に、ドスーンと大きな揺れがあり「大地震だ!裏山に逃げろ」の声に家を飛び出しました。すごい強風の中にいるような揺れ方で、とても立っていられません。家にいた作男(農作業のお手伝いをする人)が、吹き飛ばされないようにと私を荒縄で木に結わえ付けてくれました。長かった余震も収まりやれやれと家に戻って一息ついた時、皆が私を見て笑うんです。はてと思って手元を見ると、なんと昼食時のご飯茶碗をそのまま持っていたのです。極度の恐怖のために指が硬直して茶碗が離れなかったのですよ。また、どうしたことか茶碗の中がすすけたようになっていました。落ち着いた頃神田川に行ってみると、下町(今の新宿辺りを指す)のほうが焼けて空か真っ赤になっていました。鍋屋横丁方面には火災は無かったようでした。我が家は倒壊はしなかったものの破損が多かったので、建替えとなりました。
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